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札幌高等裁判所 昭和33年(く)13号 判決

少年 O(昭和一五・九・一八生)

主文

原決定を取消す。

本件を礼幌家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立理由は抗告人提出の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右抗告理由二、について

所論は、原裁判所は本件審判をなすに当り、少年の保護者に対し審判期日の告知をなさず、その結果その出席なくして審判をしたものであつて、このような手続上の瑕疵は決定に影響を及ぼす法令の違反であるから原決定は取消さるべきであるというに帰する。よつて本件記録を精査して検討するに、原審は、前記○○○○号恐喝等保護事件につき審判期日を昭和三三年六月九日と指定し、同年五月二七日、少年の保護者母B子に対し右期日の告知をなし、該期日に少年の陳述を聴き、かつ右B子にも意見を開陳させた上、少年を家庭裁判所調査官の試験観察に付する決定を言渡し、併せて遵守事項の履行を命じた後次回審判期日は追つてこれを指定する旨告知したこと、及び同年六月二八日右期日を同年七月一四日と指定し、かつ前示試験観察中の非行に対する前記第○○○○号公務執行防害保護事件もこれを併合して審判する旨の決定をした上同日審判期日を開き、少年の陳述のみをきいた上即日所論のごとく原決定を言渡したことが認められるが、同期日に少年の保護者が出頭した事実及びこれに対する同期日の告知がなされた事実は記録上これを確認するに由なく、却つて当審受命裁判官に対する証人重森正の供述調書によれば右告知手続はついて履銭されなかつたことが明らかである。してみると前記恐喝等保護事件については兎も角、公務執行妨害保護事件については少年の保護者に対し審判期日を告知して同期日に出頭して意見を開陳する機会を与えることを全然せず、その出席なきまま審判がなされたこと正に所論のとおりであるといわなければならない。

しかし、およそ少年保護事件の審判期日に保護者を呼び出さなければならない旨規定されている(少年審判規則第二五条)ゆえんのものは、同期日が裁判官において補佐役たる家庭裁判所調査官と共に少年及び関係人等に直接接触しその干与協力の下に少年に対する適切妥当な保護の方針やその方法等を決定し、かつ右保護手段の実効性を担保すべく保護者その他の事件関係人の理解と協力を確保するためのものであることは極めて明白なことに属し、右目的を達成するためには、少年に保護者ある場合は必ずその内適当と思料せられる者一名を呼出さなければならないと規定することが事物の性質上当然であるとされた結果であるから、明らかにその必要がないと認められる事情例えば保護者が積極的に上叙の如き協力を拒否する態度を明示している等の事情の存しない限り右規定は強行規定と解すべきであり、これを単なる訓示的規定と解し保護者を呼出すと否とを裁判官の裁量に委したとなすべきではない。而して本件についてこれを見るに前記B子に於ては前記恐喝等保護事件の審判期日において少年の将来を憂慮し貨任を以つて家庭における補導に当り少年を更生させたいとの熱意を披歴していることが同期日の調書上明らかであつて、その後保護者の心境に変化を示したことを窺うに足りる証左は全くないのであるから原審の右手続は法令に違反する瑕疵があり、かつその瑕疵は決定に影響を及ぼすことが明らかな場合に該当すると解すべきこと多言を要しないところであるから原決定はこの点において違法であり論旨はその理由がある。

よつて、他の抗告理由に対する判断をまつまでもなく原決定を取消して、本件を原審に差し戻すべきものとし、少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 豊川博雅 裁判官 中村義正 裁判官 高野平八)

別紙一(原審の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(事実)

少年は

第一 Dと共謀の上昭和三十三年四月十日午後八時五十分頃芦別市芦別駅前水尾商店前路上において、通行中の寺前孝三(当十六年)を呼び止め、百円貸せと申し向け、拒絶されるや同人を同市本町米田菓子店小路に連れ込み、手挙を以つて顔面を一回殴打し、要求に応じないときは更に危害を加えるような態度を示して同人を畏怖させ、よつて即時同所において同人より腕時計一個(時価七千円相当)の交付を受けてこれを喝取し、

第二 同月三十日頃同町鈴木洋服店附近において、中村芳昭(当二十一年)に対し何等の理由もなく因縁をつけ、兄貴が来ているので金を都合しろと申し向け、要求に応じないときは同人の身体に危害を加えるような態度を示して同人を畏怖させ、よつて即時同所において同人より現金三百円及び腕時計一個(時価五千五百円相当)の交付を受けてこれを喝取した他、右同様手段により同人より、同年五月四日に現金百円、翌五日に現金三百円をいずれも同市上芦別町二条通淡路ダンスホールにおいて喝取し、

第三 同年五月三日午後十時過頃同市上芦別町二条通淡路ダンスホール附近路上において、牧田一義(当二十六年)及び牧田喜代治(当二十四年)の両名に対し些細なことに因縁をつけ、手挙をもつて同人等の顔面を殴打し、よつて牧田一義に対し全治約三日間を要する下口唇裂創、牧田喜代治に対し全治約四日間を要する右頬部打撲症等の傷害をそれぞれ負わせ、

第四 同月五日午後七時過頃上芦別駅附近路上において、花坂金作(当四十六年)及び尾崎博(当三十年)の両名に対し些細なことに因縁をつけ同人等に殴る蹴るの暴行を加え、

第五 同年六月二十一日午前零時過頃、同市本町千十四番地飲食店天好及び同店前路上において、C(当十九年)及び中筋安雄(当二十二年)と共謀の上、草間照和(当二十六年)に対し何等の理由もなく因縁をつけ、交互に殴る蹴る等の暴行を加え、よつて同人に対し治療一週間を要する後頭部打撲症等の傷害を負わせ、

第六 同日午前零時三十分頃前記天好前路上において、右傷害事件の急報に接し現場に赴いた芦別警察署駅前巡査派出所勤務北海道巡査竹田孝、同、館清の両名が中筋安雄から事情を聴取しようとしたところ同人及びCと互に意志を通じて館巡査に組みつき、襟首をつかんで押し倒そうとしてもみ合い、更にこれを制止しようとした竹田巡査とも格闘するに至り、もつて同巡査等の職務の執行を妨害し、その際Cが所持していた登山用ナイフで竹田巡査に対し加療十二日間を要する右手挫創の傷害を負わせたものである。

(適条)

第一及び第二の事実 刑法第二百四十九条第一項

第三及び第五の事実 同法第二百四条

第四の事実 同法第二百八条

第六の事実 同法第九十五条第一項第二百四条

少年は前記第一乃第四の恐喝暴行等保護事件によつて本年六月九日当庁において、いわゆる試験観察決定を受け、その際今後芦別市には行かないこと及び家庭外で飲酒しないことを約束したにもかかわらず、僅か十日余り後に芦別市において飲酒の上本件犯行に及んだものであつて、その性格環境に照し、現段階においては施設に収容の上矯正教育をなす以外適当な方法が考えられない。よつて少年法第二十四条第一項第三号、少年審判規則第三十七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(昭和三三年七月一四日 札幌家庭裁判所裁判官 土屋重雄)

別紙二(差し戻し後の原審の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は

一、Dと共謀の上、昭和三三年四月一〇日午後八時五〇分頃、芦別市芦別駅前の水尾商店前で、通行中の寺島孝三(一六年)を呼止め、同人に対し「おいお前百円貸せ」と申向け金がないと断られるや、更に「時計かバーバリーコートを貸せ」と申向け、これも拒否せられるや、同人を同市の通称五山市通り米田菓子店横小路に連れ込み手挙をもつて同人の顔面を一回殴打し、よつて同人を畏怖させた上即時同所において腕時計一個(時価七、〇〇〇円相当)を交付させてこれを喝取し

二、同年同月末日頃の午後六時頃芦別市本町鈴木洋服店附近において中村芳昭(二〇年)に対し、因縁をつけて「兄貴が来ているから金を都合しろ」と申向け、要求に応じないときは身体に危害を加えるような態度を示して畏怖させ、よつて即時同所において同人より現金三百円及び腕時計一個(時価三、五〇〇円相当)の交付を受けて之を喝取し

三、同年五月五日午後九時頃、同市芦別町二条通り淡路ダンスホールにおいて前記中村芳昭に対し前記同様の手段をもつて同人を畏怖させ即時同所において現金二百円を交付させてこれを喝取し

四、同年同月同日午後七時〇分頃より同二〇分頃までの間に、上芦別行中央バス内において、及び上芦別駅前日通事務所前において些細なことに因縁をつけ、花坂金作、尾崎博の両名に対し殴る蹴る等の暴行を加え

五、少年C(一九年)成人中筋安雄(二二年)と共謀の上同年六月二一日午前〇時頃、芦別市本町一、〇一四番地天よし食堂前路上において、草間照和に対し因縁をつけ、手挙又は瀬戸製灰皿をもつて同人の顔面等を交互に十数回に亘り殴打し、因つて同人に、後頭部左頬部打撲症並に右口腔内裂傷による全治まで加療一週間を要する傷害を負わせ

六、前記C、中筋の両名と意思連絡の上同日午前〇時三〇分頃前同所において、古事件捜査の為め同所に赴いた芦別警察署勤務北海道巡査竹田孝、館清の両名に対しその事件捜査の機をみて襲いかかり襟首及び腕等をつかまえて引き廻す等の暴行を加え以て警察官の職務判行を妨害し、その際木野俊夫は所持していた登山用ナイフを以て竹田巡査に対し加療一二日間を要する右手挫創の傷害を負わせたものである。

(適条)

判示一の事実 刑法二四九条一項、六〇条

判示二、三の事実 刑法二四九条一項

判示四の事実 刑法二〇八条

判示五の事実 刑法二〇四条六〇条

判示六の事実 刑法九五条一項、二〇四条六〇条

(処遇について)

少年の性格は鑑別結果によると、社交的で誰とでも平気でつき合うが、勝気で我儘で何事も自分の思う通りにいかないと面白くないというたちだから人づき合いが円滑でない。些細なことで感情が興奮し衝動的に行動する。冷静にじつとしていることが嫌いで活動的である。熱し易く冷め易い。自己顕示性が相当強いと認められる。即ち自己顕示の為めつき合いを広めるが、勝気我儘の為めに人づき合いが悪く円滑を欠く。そして円滑を欠くことが不満となる訳であるがこれを自分の欠点として反省することなく、却つて周囲に反抗し暴力を振つて不満を発散させているのである。その為め不良仲間を除く周囲のものからは街のダニとして敬遠されているのである。

従つて少年は我儘と粗暴性を改めなければならないのである。少年に対しては昭和三一年九月二四日旭川家庭裁判所で保護観察に付する決定をしている。しかしその後判示第一乃至第四の非行があつた訳で保護観察は一応失敗に帰したことになる。けれども右事件が当裁判所に係属した後、反省し更生意欲のあることを示したので、昭和三三年六月九日少年の自力更生に大きな期待をかけて、遵守事項を定め試験観察に付したのであつたが、反省が浅かつた為めと自己の前記性格的欠点を自覚して之を自ら正そうとする心掛が足りなかつた為め遂い判示第五第六の非行に加担するようになつたものと解されるのである。いま少年の非行性格矯正について考えてみるに、少年はその知能が悪い訳ではなく寧ろ良い方であるから、自分の欠点を充分反省し知能を悪用しないで善用することが肝要であり、そうすれば今後立派な社会人になれるとの自信を先づ持つて貰わねばならないのである。それから現在の処遇としては、少年のこれまでの非行歴、反省の程度及び家庭の保護能力を考えてみると、少年を敬遠している地域環境に戻つてみても直ちに善良に融和するとは保障できないし、そうだとすると再び失敗を繰返すおそれが充分あるので、一時施設に収容し、規律ある生活訓練を通して社会適応性を回復し且つ涵養することこそ適切であると思料されるのである。

なお昭和三三年五月三日午後一〇時頃上芦別町二条通りダンスホール前において牧田一義及び牧田喜代治に傷害を負わせた点は他の不良も同所にいたことであり証拠(被害者二人及面割供述)が未だ不充分であるので罪となるべき事実として挙げなかつた。しかして仮りに此の事実があつたとしても現段階では更に処分を強化する必要はないと考える。よつて少年法二四条一項三号少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(昭和三三年九月三〇日 札幌家庭裁判所 裁判官 海野賢三郎)

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